配慮が足りない!(日本刀の斬れ味)~5月(後編)~

 こんにちは、はわゆです。 前回に引き続きまして、仙人のお話です。

 ところで、この仙人という御仁。
 東青梅で武道具屋を経営する傍ら、『錬心館』という剣道場を持っています。
008.jpg【仙人も、もちろん会員だった全日本刀道連盟の稽古風景。この連盟は、林先生が友人の故・中澤敏先生と立ちあげた「刀を愛する親睦団体です】 実は一時期、この道場。
 通って来る子供達の数が減少してしまい、もう最後の4人になってしまった時があり、仙人は正直、一度は閉場を考えたそうです。
 それでも子供達の、強い願いがあって。 
 それまでは毎年行なわれていたという錬心館主宰の剣道大会が、今年本当に久し振りに開催される事になりました。
 …そこに招かれた、林先生。
 真剣刀法の奥伝の型(初伝、中伝、奥伝とある)を説明して、実際に真剣で斬って見せて欲しいと、仙人に頼まれたそう。
 先日(5月10日)日野市で行なわれた『新選組祭り』でも、同じ事をやって見せたと林先生は言います。
 今年の5月の母の日は、朝からわりと良い天気でした。
 会場では開始に伴い、諸々の注意の他に、まずは主催者である仙人のお話。
 それから甲源一刀流の組手25本の内、15本の紹介があって、いよいよ林先生の真剣での試斬の披露となりました。

 真剣刀法の型は、それぞれ四方に敵がいると想定した物です。

新撰組まつり.jpg【全日本刀道連盟が、毎年演武をやっています日野の新選組まつり】 はわゆサンと他3名が敵に扮して、斬られ役をやりました。
 その後に林先生が、実際に巻き藁を、説明した通りの型で斬ります。
 その後にいよいよ、剣道大会が始まりました。
 演武が終ってしまえば、はわゆサン達の仕事も終り。
 そこで仙人が、食事の場を用意して下さいました。
 ところで、今回は、会場で甲源一刀流を披露したのは仙人ではなくて、お弟子さんでした。
 いろいろなお話の中で、仙人は弟子の一人の方を指し示して、こんなお話をなさいました。

 先日、機会があって仙人は、そのお弟子さんに試斬を披露させたのだそう。
 その試斬とは、真剣刀法の大会でよくやる方法です。
 一本巻と、半巻を合せて二本。 試斬台を横一列に、付けて並べます。

 これを外側から一本ずつ斬ってみたり。
 または思い切って、一度に二本まとめて斬ったり。(写真参照)

 一本だけを切る場合には、二本を並べて一本だけ斬った所で、刀を止めます
 真剣刀法の初伝の型で求められる方法なのですが、袈裟斬りを下まで斬り下ろさないで、頭から肩口、首から胸までと、止めるテクニックなのです。
刀.jpg【2本立てている内、右側一本だけを斬る】 袈裟斬りなら、初めて試斬を体験する方でも、斬れます。
 で、もこの止めるというテクニックはなかなか、おいそれとはいきません
 で、このお弟子さんに与えられた手とは、片手抜打ちで左側にある半巻を斬って止め、その後に一気に右から左へと二本同時に斬り下ろす
 …そういう手だったそうです。

 ところで、一口にとは言っても、その斬れ味は様々です。
 斬れ過ぎる刀なんて、それだけで魔物だと仙人は言います。
 刀はただ斬れればいい物ではなくって、上品な物でなくてはいけない。
 ・・・たとえば、小説等には良く出て来ますよね?
 『妖刀』って。
 持っていると、人を斬ってみたくなる・・・。
 そのような剣は、仙人に言わせれば邪道なのだそう。
 勿論刀が、良く斬れる事は大事ですが、それだけではなくって、品が良い剣でなくてはいけない。
 品の良い剣は、人を斬りたいなんて思わせない。 …各々、そんな刀を持って、稽古をしなくてはいけない。 (-"-)

 仙人は愛用の刀を、試斬披露の当日にお弟子さんに貸し与えたそうです。
 無論その刀は仙人自慢の上品な拵えで、とても斬れる刀です。
 良く斬れる刀だから、人前でも失敗はないだろうと。 そんな仙人の、弟子を思う気持ちからの行為でした。
index-8.jpg【これがその、許可証】 ところでには、『許可証』という物があります。
 法律上ではは、持ち主のみが使用出来ると定められている訳です。
 ですが稽古場では、初めはみんな先生の許しを得て、先生の刀をお借りして(刀は高価ですから)稽古をしています。
 このお弟子さんは、マイ・刀(稽古場語禄で、自分の物と言う意味で、マイ・木刀などと当方では、呼んでいる)を持っていつも稽古をされていたそうですが、師匠の好意です。 喜んでお借りしたそうです。
 ですがこの仙人刀。
 お弟子さんのマイ・刀よりもはるかに、斬れ味の方が良過ぎました
 言うなれば、いつもは切れない包丁で料理をしている人がある日、研いだばかりの、力を入れなくても切れてしまう包丁に巡り合ったようなものです。

 良く斬れる刀は、テクニックが無くても斬れるんです。

 お弟子さんはいつものように片手抜打ちをして、二本一遍に袈裟斬りしました。
 いつものように力をコントロールして斬った訳ですが、今回は刀の斬れ味が違います。
 スパッと。
 袈裟斬りの後の刀の勢いで、左膝までスッと、ついでに斬ってしまいました。
刀2.jpg【この勢いで、左足を斬ってしまったという事故でした】 それでも人前での事だったので、緊張も手伝ってか痛いとも思わず。 退場して初めて、膝に血が滲んでいるのに気が付いたそう。
 8針とか、縫ったそうです。

 仙人は、仰いました。
 いつも使っている自分の刀で今回もやっていたなら、怪我は無かったかも知れない。
 良く稽古で、自分の刀を持ちなさいと言うけれど。 それは、大事な事なんだ。
 勿論今回は、右から左へと斬り降ろした後の刀の始末が、自分の膝より左の方へと(写真のように)抜けていれば・・・。
 そのテクニックが充分に弟子の身に付いていたなら、防げました。
 でも、この斬れ味の差。 それ一つで、これ程にも変るものなのです…。
「俺の配慮が、足らなかった…」
 そう仰る仙人ですが、甲源一刀流もそうですが、剣道を始めて今年で60周年を迎えたそうです。
 その仙人がニコニコとまた、朗らかに言ったものです。
「俺はこの時、勉強した」
 ・・・仙人の年になっても、勉強したと言える人生って。 
 本当に、素敵だと、はわゆサンは思いました。
 仙人の現世(うつしよ)のお名前は、阿部雅司先生と仰います。

sennin-1.jpg【写真手前左が林先生で、となりの白いお髭の方が仙人。そして後ろの女性はもちろん、はわゆサン★ …仙人は惜しまれながら、2008年に他界されました。あの世でも元気に「とぉーーっ!」とやってるのかも】

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